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えっと3,4ヶ月ぶりですね。
変わらず映画館に足を運んでいたわけですが
忙しいを言い訳にずっと書いてなかった。
いや、メモ程度には書いてたんですけど
今回勢いよく書けたのでせっかくだからまとめました。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 




ある日、デビッド(ジョン・チョー)の16歳の娘マーゴットが突然姿を消す。行方不明事件として捜査が行われるが、家出なのか誘拐なのか不明のまま37時間が経過する。娘の生存を信じるデビッドは、マーゴットのパソコンでInstagramなどのSNSにログインする。そこで彼が見たのは、自分が知らなかった娘の一面だった。


- シネマトゥデイ -



後述するので省きますけども
すでにアメリカ版○○!みたいな煽りを聞いたので
せっかくだし観ようと思った所存。


 


監督はアニーシュ・チャガンティ
本作が初監督作となる、弱冠27歳というとんでもない若手である。


デビット・キムジョン・チョー
俳優、コメディアン、ミュージシャン、声優と多岐にわたる
スタートレックシリーズでヒカル・スールー、トータル・リコールでマクレインを演じる
本作の主人公で行方不明の娘を探すために奔走する。


マーゴット・キムミシェル・ラー
デビットの娘
学校では生物の上級クラス、母の影響でピアノ教室に通っている。


ローズマリー・ヴィックデブラ・メッシング
2013年までTVドラマなど出演
映画も直近でTHE WOMEN 明日の私に着替えたらでイーディを演じている。
デビットに担当刑事として任命されたと名乗り、
以降彼のサポートと共に事件全体を指揮する。


パメラ・ナム・キムサラ・ソーン
デビットの妻でマーゴットの母にして故人。


ピーター・キムジョセフ・リー
デビットの弟でマーゴットの叔父。


ロバート・ヴィックスティーヴ・マイケル・アイク
ヴィック刑事の息子
刑事の子どもながら手を焼かされている。


 


 


 


 


 


 


出演者の詳細はほとんどwikiから出てこなかったのでほぼ割愛。
というわけですぐさまレビューに移りたいと思います。


 


 


 


 


 


アメリカ版カメラを止めるな!だ


と言われたら心外かもしれない。
だけどあえて読者に分かりやすい説明として定義しよう。
話の中身がというより映画を制作するにあたって異色のアプローチだという1点のみ。


この作品は全て画面上に表示されるものを介して映し出される。
基本的にPCのデスクトップに表示されるテキスト、画像、映像。
終始それである。
物語の流れは行方不明となった娘をSNSなどを利用して探す父親の視点で描かれる。
正確には父親の行動をPCを介してぼくたちが観ている。
そしてネットの無関心が、悪意が、承認欲がよかれと思った何かが、
その行動した全てが凝縮された坩堝が描かれる。


もちろんその手法を抜きにしても
終始巧みに埋め込まれた伏線を含むストーリーテリングには感服といえる。
SNSという時代に沿ったテーマと新たなる手法、
そこに折り込まれた展開。
まさにアプローチとテーマがうまく合わさった作品だ。


 


上映開始と共にぼくたちはPCの前にいる。
かつて聞き覚えのあるダイヤルアップ接続のピーガガガの音。
観たことのある草原の風景、起動音、WindowsXPの画面だ。
スタートボタンをクリックし、新規ユーザーを作成。
マーゴットと打ち込まれる。
そこからは目まぐるしいキム家の十数年に及ぶ経緯。
マーゴットのピアノ教室
父親であるデビットと妻のパメラのガンの闘病生活
パメラの帰りを楽しみにカレンダーの予定を入力し
遅れては予定項目をずらすマーゴット...
果てにはそれすら削除されて永遠の別れが訪れ
ハイスクールに入学した写真を機に物語ははじまる。
ここまででパソコンの歩んできた歴史
キム家の歴史が一挙にぼくらにインプットされた。


 


現在の時点でパメラがいなくなった家庭は
良好に見えてその実、父娘の会話は寂しげだ。
二人のメッセージもデビットは言葉を選んで
死んだ妻のことを書こうにも送信を押すことなく消してしまう。
そんなある日、マーゴットは友達の家で勉強会から遅くなると聞く
しかし翌日も連絡が途絶え帰ってこない
デビットは心配になり彼女の幼馴染に連絡するとその母が電話に出て言うのだ
山にキャンプに行ったと。
安心すると共にそんな知らせも知らないことに憤りを覚えるデビット
怒りに任せた乱文も打ち込んでは迷って送信せず消した
しかしのちにその幼馴染からの連絡でキャンプに来なかったことがわかる。


そこからは警察に連絡し
担当に任命されたヴィックという女性刑事と共に
娘の人間関係をSNSを介して調べていく。
ネット社会だからこそと思うのは娘のSNSは全て非公開になっており
デビットはパスワードを忘れた場合のプロセスを辿りながら見つけていくところだ。


そこから面白いのはあらゆる言動や画像、映像に含まれた伏線
複数のどんでん返しだ。
ネタバレはしたくないのでこれ以上の展開は伏せておく。


感情を感じ取れる演出たち


本作の特徴は全て画面上で完結した特殊なアプローチにある。
これがどう演出に生かされているかというところを話したい


テキストと映像から読み取れる感情


主にデビットのメッセージとテレビ電話で映し出される自身の映像である。
先も打ち込んだメッセージを迷って消すなど描かれているが、
ここに映像と共に送信すべきか悩むデビットの心情が読み取れる。
死んだ妻の話をして娘は困惑しないか、
憤りに任せた乱文を書いたはいいが、いや冷静になれ
と言った普段メールやSNSで同じことをしたことがあるのではないか。
他にもシャットダウンさせようとして、確認ダイアログで間をおいて気づいたかのようにキャンセルして行動を起こしたりと画面上だけなのに雄弁だ。
そんな感情の起伏や動悸を全てデスクトップ上のテキスト、画像、広告、映像、アイコンへのカーソル、クリック、ドラッグなどおなじみの動作で表現している。これがこの作品における最大の演出の意味と捉える。


感情を掻き立てる音楽演出


それとは別で主にデビットの操作ではない部分で活きているのが音楽だ。
クリックなどの所作がない部分はまさに映像に映し出される俳優の演技に起因する。
とはいえ、youtubeやニュース映像など画面を介した映像だ。
その映像に対して感情の波を増幅するかのように音楽が流れる。
基本的に不安を煽るような雰囲気だが、
クライマックスではLive感を得られるくらい盛り上がるものになった。
感情を増幅するのはどんな作品もそうだが、
今回それを果たすに十分な演出をしている、と言える。


ネットのリアル、人間のリアル


時としてネットの世界はリアルよりも雄弁である。
と言えるほどに反映されたネットあるあると人の業の深さだった。
作品内でわかってくることはネットの闇。
デビットにとっては知らない娘の姿だった。
彼女がTwitter、Facebook、Instagramなど様々なSNSを利用していたのは
現実で感じる孤独感からくるものだった。
そこには上辺だけの友人が溢れていた。
同時に幼馴染や学校の友人もデビットが問い詰めると返ってくる言葉は


そこまで仲良くはなかった


気を遣うよう親に言われた


など心から友人と呼べるに値しない答えが返ってきた。
しかし、行方不明で警察沙汰になると
彼らは一変する。


彼女は親友だった


クラスメイトがいなくなることで気づいた、こういう時に助け合うべき


上辺だけの言葉を聞いて貼る良い人レッテルや賞賛の声を浴びせる人々。
まさに承認欲求を求める有象無象と画面の外にいる観客たち。
また、こういうのは家庭の問題がつきもの、変質者に襲われたなど
憶測や無責任な供述をする市民、報道するメディア
彼女は俺といる、など面白おかしく嘘を並べる人
など舞台はアメリカなれど、日本でも似たような状況は見たことがある。


そこには娘の行方不明沙汰を
人生の一時の刺激物として消費する人々の業で溢れていた。


しかし同時に捜索に協力し一緒に行動してくれるボランティアたちがいる。
実際に行動してくれる分だけ心境や目的はどうあれ人の美点であろう。


アプローチとテーマの先


この作品はSNSの是非を問う作品ではない
ここまでSNSを否定するかのような印象を与えていた。
しかしこの作品は最初から最後までデスクトップ上での出来事を描いた作品である。
SNSの使用に警鐘を鳴らす作品であったとしても否定ではない。
そこにはこれからも付き合い続けるという意思を感じられる。
個人的には使い方を是正して善意に溢れたネット社会というのも理想ながらも
全てがそうなるとそれはそれで恐ろしい気がする。
そんな無責任や悪意ある言動、よかれと思っての言動が悪手だったという世界で
どう付き合っていくかを問う作品だと思う。
事実、デビット自身システム系の仕事をしている様子でネット上でのやりとりが多い
そんな中彼は娘がいないという一点において冷静を欠き、
心無いネットの声に暴走する場面があった。
ソーシャルな利用はしないからそこまでリテラシー強くなかったのか定かではないが
そういう手合いを相手にしないなどの利用方法を確立していくしかない。


コミュニケーションにおいて便利なツールは多くあるけども
それを使うのはやはり人。
言葉を送る先には生身の人間がいる、それを前提とした使い方を考えて行きたい。デビットも娘のことを考えて言葉に迷っているのだ(これがよかれと思っての行動になってしまうけども)
自分の言動を振り返ってから送っても遅くはないだろう。


 


満足度:★★★★★★☆(8/10)